御改正の一、二端申し上げ奉り候口上書
一、天幕御合体、諸藩一和、御国体相立ち候根本は、先づ天朝の権を増し、徳を備へ奉り、竝びに公平に国事を議し、国中に実に行はる可き命令を下して、少しも背く事あたはざるの局を、御開立相成り候事。
蓋し権の帰すると申すは、道理に叶ひ候公平の命を下し候へば、国中の人民承服仕り候は、必然の理に候。
第一天朝に徳と権とを備へ候には、天子に侍する宰相は、大君・堂上方・諸候方・御旗本の内、道理に明らかにして方今の事務に通じ、万の事情を知り候人を撰びて、六人を侍せしめ、一人は大閣老にて、国政を司り、一人は銭貨出納を司り、一人は外国交際を司り、一人は海陸軍事を司り、一人は刑法を司り、一人は租税を司る宰相として。
其れ以下の諸官吏も、皆門閥を論ぜず人撰して、天子を補佐し奉り、是れを国中の政事を司り、且つ命令を出す朝廷と定め、亦別に議政局を立て、上下二局に分ち、其の下局は国の大小に応じて、諸国より数人づつ、道理の明らかなる人を、自国及び隣国人の入札(いれふだ)にて撰抽し、凡そ百三十人に命じ、常に其の三分の一は、都府に在らしめ、年限を定めて、勤めしむべし。
其の上局は堂上方・諸候・御旗本の内にて入札を以って人撰し、凡そ三十人に命じ、交代在都して勤めしむべし。
国事は総て此の両局にて決議の上、天朝へ建白し、御許容の上、天朝より国中に命じ、もし御許容なき条は、議政局にて再議し、いよいよ公平の説に帰すれば、此の令は是非とも下さざるを得ざることを天朝へ建白して、直ちに議政局より国中に布告すべし。
其の両局人撰の法は、門閥貴賎に拘らず、道理を明弁し、私なく且つ人望の帰する人を公平に撰むべし。其の局の主務は、旧例の失を改め、万国普通の法律を立て、竝びに諸官の人撰を司り、万国交際・財貨出入・富国強兵・人才教育・人気一和の法律を立て候を司り候法度御開き相成り候儀、御国是の基本かと存じ奉り候。
一、人才教育の儀、御国是相立ち候基本に御座候事。
国中人才を育て候法は、江戸・京・大坂・長崎・函館・新潟等の首府へは、大小学校を営み、各々其の大学校には、用立ち候西洋人数人づつを雇ひ、国中有志の者を教導せしめ、大坂に兵学校を建て、各学科毎に洋人数人づつを雇ひ、国中兵事に志有る者を御教育相成り、且つ国中に、法律学・度量学を盛んにし、其の上漸々諸学校を増し、国中の人民を、文明に育て候儀、治国の基礎にこれ有る可く候。
一、国中の人民、平等に御撫育相成り、人々其の性に準じ、充分を尽くさせ候事。
是れまでの人々性に応じて、力を尽し候儀、不同これ有り、遊民多くして、農のみ多く労し、他の諸民は運上少なく候へば、第一百姓の年貢掛り米を減じ、士・商・工・僧・山伏・社人の類まで、諸民諸物に運上を賦し、遊楽不要に関はり候諸業諸品は運上の割合を強くし、諸民平等に、職務に尽力し、士は殊に務めを繁くし、国中の遊民・僧・山伏・社人・風流人・遊藝の師匠の類には、それぞれ有用の職業を授け候御処置、治国の本源にこれ有る可く候。
一、是れまでの通用金銀、総て御改め、万国普通の銭貨、御通用に相成り、国中の人口と物品と銭貨と、平均を得候御算定の事。
銭貨は天地の像に準じて、万国一般円形に造り、且つ万国大凡普通の相場これ有り候へば、是れに準じて、銀貨・金貨・銅貨の割合、大凡西洋各国と同様に御吹替へ、其の大小品位も同等に造らず候ては、ゆくゆく万国の交際に、不斉を生じ、且つ交易通商の上に、損害これ有る可く候。亦国中人口に比すれば、銭貨不足にこれ有る可く、器財物品の不定なること甚だし。故に銭貨を増し、物品製造の術を大いに盛んにするに非ざれば、平均に至る事、難かるべく存じ奉り候。
一、海陸軍御兵備の儀は、治世と乱世との法を別ち、国の貧富に応じて、御算定の事。
蓋し兵は数寡なくして、利器を備え、熟練せるを上とす。方今の形勢に準じ候はば、陸軍治平常備の兵数は、都で凡そ二万八千ばかり、内歩兵二万千ばかり、砲兵四千ばかり、騎兵二千ばかり、他は築造運輸等の兵とすべし。右兵士は、幕臣及び諸藩より直ちに用立て候熟兵を出し置き、四年毎に交代せしめ、其の隊長及び諸官吏は、業と人望に応じて、天朝より命ぜられ、望みに応じて長く勤めしむ。
其の兵は三都其の外要地に在って、警衛を職とし、此の常備兵の外、士は勿論、諸民皆其の土地へ教師を出して、平常操練せしめ、且つ有志の者は、長官(士官)学校に入れて学問せしめ、亦士にても、望みに応じて、職業商売勝手次第行はしめて、ゆくゆく士を減ずべし。
海軍は速やかに開け難し。先ず海軍局へ、洋人を数人御雇ひ、国中望みの者其の外合せて三千人に命じて、長官より水卒までの業を学ばしめ、業の成立に準じて、新たに艦を造り、亦は外国より買って備ふべし。即今常備の海軍は、是まで御有合せの御艦に、人を撰びて乗組みを命じ、用立ち候程に修覆し、砲を増し備ふべし。尚国力の増すに従ひて、兵制を改め、兵備も充分に相増し、殊に乱世には国中の男女尽く兵に用立ち候程に、御備への御所置これ有り候儀、御兵制の本源に御座候。
一、船艦竝びに大小銃其の外兵器、或ひは常用の諸品、衣食等制造の機関、初めは外国より御取寄せ、国中是れによりて、物品に不足なき様、御所置の事。
諸物製造の局は、運輸の便利の地を撰びて、諸所に造営し、各局に西洋人を雇ひて伝習せしめ、国中職人を増し、盛んに諸物を製し候へば、海陸兵用の利器海内に満足し、日用の諸品廉価にして良品を得べし。其の洋人を雇ふ入費は、職人一ヶ月の雇ひ価食料合わせて凡そ二百より二百五十両ばかりなるべし。此の金は日本在留中大凡費すべければ、外国に持帰る貨は些少なるべし。故に洋人を雇ふこと、少しも厭ふべきに非ず。諸品製造局は、ゆくゆく是非開かざるを得ざる事なれば、此の節速やかに御開きに相成り候儀、当然と存じ奉り候。
一、良質の人馬、及び鳥獣の種類、御殖育の事。
蓋し欧羅巴人種は、亜細亜人種に勝ること現然に候へば、国中に良種の人を殖育し候へば、自然人才相増し、ゆくゆく良国と相成り候理に候。
亦軍馬は外国の良種にこれ無く候ては、実用に不便に御座候。又牛羊鶏豕の類、衣食に用いて有益の種類を殖育し、ゆくゆく国民皆牛豕鶏の美食を常とし、羊毛にて織り候美服を着候様改め候へば、器量も従って相増し、身体も健強に相成り、富国強兵の基にこれ有る可く候。
此の他御改正相成り候ても、国風人性に逆らはざる事件何程もこれ有り候へば、方今障りなき事件だけは、速やかに御改正相成り、其の他即今行はれ難き事は、人智の開け候に応じて、漸々御改正相成り候儀、天理自然にこれ有る可く存じ奉り候。斯く御国政にも関わり候儀を申し上げ奉り候は、甚だ恐れ入り奉り候へども、心附き候儀を黙止仕り候も、かへつて不本意と存じ奉り候間、浅見の一、二端、恐れながら申し上げ奉り候。何卒御尽力遊ばされ、方今適当の御国律相立て、天幕御合体、諸藩一和相成り候様懇願奉り候。昧死稽首
慶応三年丁卯五月
松平伊賀守内
赤松小三郎
出典:『續再夢紀事(6)』より
御改政の一つ、二つを書いて申し上げます。
一、天皇支持者側と幕府支持者側が協力する事、各藩は仲良くする事で国が一つになる。それにはまず朝廷の権限を増し、正しい政事をします。
また、公平公正に国の大事な事を相談して国中に実際に行うよう命令を出しても、少しも反対はないのでお始めになる事、思うに納得のいくよう公平ならば国中の人たちは承知するのがあたりまえです。
第一に天皇に道理と権限をもってすれば天皇に仕える総理大臣は将軍、公卿(公家)、各藩主、旗本のうちから道理に明るく、いろいろな学問がありいろいろな事情がわかっている者を選んで六人を決めます。一人は国の政治を中心になって行い、一人は財務の仕事、一人は外国との交際の仕事、一人は国防防衛の仕事、一人は治安法務の仕事、一人は税金の仕事をする首相として。それ以外のいろいろな高級公務員も身分の上、下や財産の多い少ないに関係なく選んで天皇を支えて国中の政治を行います。そして、命令を出すのは天皇です。また別に議会をつくり、上院議会、下院議会の二つに分け、その中の下院議員は国(藩)の大小により、それぞれの国(藩)から数人ずつ推せんして選挙で選びます。およそ百三十人に命じ、その三分の一は京都や江戸に住んで、年限を決めて勤めます。
上院議員は公卿(公家)、各藩主、旗本より選んで決定したおよそ三十人を交代して都に勤めさせます。
国の大事はこの二つの議会で決め、天皇へ報告し、お認め頂いたら天皇より国中へ命じます。もし、お認め頂けない条項(ところ)は議会で、もう一度話し合い、どうしても国民、国家のために必要と決ったらそれを天皇へ報告して、すぐに議会より国中に知らせます。
その二つの議会の議員を選ぶには身分の上、下や財産の多い少ないに関係なく、道理に明るく、学問があり、思っている事を言える事、自分勝手でなく、大勢の人から尊敬されている人を公平に選びます。その人たちの主な仕事は今までの悪い例や間違いは改善し、日本中のどこでも通用する法律をつくり、また、高級公務員の人選も役目とし、どこの国(藩)とも交際し、お金を通用させ、豊かな国(藩)となり強い兵隊をつくり(富国強兵)、頭がよくなる教育(人材教育)をし、人々の心がおだやかで心が一つになるような法律をつくることを日本の国の政治方針の基本にします。
一、人材教育のことを国の方針の基本にします。
国中の人材を育てるには江戸・京・大坂・長崎・函館・新潟などの都市へは大学や小学校を作りそれぞれの大学校には役立ちそうなヨーロッパ人数人ずつを雇い国中のやる気ある者を勉強させ、大阪に兵学校を建て、各学科ごとにヨーロッパ人数人ずつを雇い、国中から兵学をしたい者を集めて教育し、また、国中に法律学・度量学(長さ、重さ、かさを学ぶ)を盛んにし、そのうちに段々いろいろな学校をふやし国中の人々の頭がよくなりいろいろ工夫できる人間に育てます。これを国を治める基礎にします。
一、国中の人民を平等に育て、人々を能力にあわせて十分に努力させます。
これまで人々の育て方はよくありません。仕事をせず遊んで暮らしている人が多くいて、農民だけよく働き他のいろいろな人たちは税が少なかったので百姓の税を減らし、武士、商人、職人、和尚、山伏、神社で働く人たち等に税をかけます。遊んで暮しているのはよくありません。いろいろな職業、品物にも税を重くし、諸民平等に仕事をし、武士は殊に仕事に励み国中の遊んで暮らしている人、和尚、山伏、神社で働いている人、茶道や華道、画家など風流を楽しむ人、遊芸の師匠等にはそれぞれ役に立つ職業に就かせ、税金をとることです。これを国を治める資金、財源にすることです。
一、これまで通用の金貨、銀貨はすべて改め、日本中普通に通用する銭貨(お金)にし、日本中の人口と物品と銭貨(お金)はどこで取り扱っても同じ価値にします。
銭貨(お金)の形は円形につくり、かつまた、日本中普通に使えるようにして、銀貨、金貨、銅貨の割合はヨーロッパの国々と同様に作りかえ、その大きいもの、小さいものも同様に作らないとゆくゆくは世界中の国々と貿易するときに釣り合いがとれなくなります。貿易するときに損害を受けます。また、日本中の人口にあてはめてみれば銭貨(お金)の不足になり、機械や品物の流通がひどく不安定になります。ですから銭貨(お金)をふやし、品物の製造技術を大いに盛んにしないと平均には行きません。
一、海軍や陸軍の兵備は平和なときと世の中が乱れ危機が迫っている時に分けて考え、国(藩)のまずしいところと豊かなところを考えて基準を算定します。
思うに兵士は少ない数で進歩的な兵器を備え、兵士に訓練させることが良いです。現在の状態で陸軍は平和な状態なら都でおよそ二万八千人くらいで、その内、歩兵は二万千人くらい、砲兵は四千人くらい、騎兵は二千人くらいで他には橋や建て物を作る工兵や運搬をする兵士が必要です。こういう兵士は幕府の家臣や各藩からすぐに熟練した者を出し、四年毎の交代とし、その隊の長官や補佐官は技術が高く、人々から人望のある人で、天皇より命じられ、希望があれば長く勤めさせます。
その兵士は京都・大阪・江戸にいて、警衛を職業とし、この常備兵の外、士は勿論諸民など、その土地へ教師を出して毎日練習に努めさせ、なお、有望の者は長官(士官)学校に入れて学問させ、また士でも希望があれば職業、商売など自由にさせて、ゆくゆくは士の数を減らします。
海軍は今すぐにはできないです。まずは海軍局へヨーロッパ人を数人雇い、日本中の将来性のある者など合せて三千人に命じて長官より水兵までのいろいろなことを学ばせ、その得意の能力に応じて、新しい軍艦をつくり、また、外国より買って国に備えます。
今すぐ常備する海軍は、これまである軍艦に人を選んで乗り組みを命じて役立たせます。また、それらの軍艦は修繕して大砲をふやし備えつけます。なお、国の力が増してきたら兵制を改め、兵備も充分にもっと増やします。ことに、世の中が乱れ危機が迫ってきたら、日本中の男女すべてが兵士として役立つように備える所置が大事です。兵制の元であります。
一、戦艦、また、大砲、小銃その外の兵器、あるいは普段使っているいろいろな品物や衣食に関するものの製造の役所や工場には初めは外国より取り寄せ、日本中に品物が不足のないようにします。
いろいろな物の製造を受け持つ役所(工場)は、運搬の便利よい土地を選び、あちこちに造り、各役所(工場)にはヨーロッパ人を雇って学ばせて、日本中に職人をふやし、盛んにいろいろな品物をつくることができれば、海軍や陸軍兵士の進んだ兵器に日本国内は満足し、日用品も安くなり良い品を使えます。そのヨーロッパ人を雇う費用は、一ヶ月の値段は食料も合わせておよそ二百~二百五十両ばかりです。この金はヨーロッパ人が日本に在留中に大体使ってしまうようにすれば、国の外へ持ち帰る銭貨(お金)はごく僅かとなります。ですからヨーロッパ人を雇うことを少しも敬遠することはありません。諸物製造の役所(工場)はゆくゆくどうしても続けたいならば、そのまま続ければいいのは当然です。
一、役に立つ人間を育て、馬及び鳥や獣のいろいろを養殖します。
思うにヨーロッパ人種はアジア人種に勝ることは確かです。日本中に体格のいい健康な人間を育てれば頭のいい、役に立つ人間がふえ、だんだんと良い国になるのは当然です。
また、軍馬は外国のいい馬を飼育しないと不便です。また、牛や羊、鶏、豚などを養殖し、衣食に用立てたり、ゆくゆくは日本中の皆が牛や豚、鶏の肉を常食にしたり、羊毛を織って美しい服を着れば見たところも才能もよくなり、体も丈夫になって富国強兵の基礎づくりになります。
この他ご改正になっても国風が日本人の本来もっている本質に逆らわない事件がどれ程あっても現在さまたげになる事件のことはなるべく早くご改正になり、その他すぐできないことはもう少し先に伸ばしだんだんにご改正すればよいでしょう。自然の道理です。このように御国政にも関係したことを申し上げますことは、非常に恐れ入りますが、気付いたことを黙っていることはかえって本心にそむきますので浅はかな意見ですが、一つ、二つ恐縮しながら申し上げます。何とぞお骨折り下されば現在、ちょうどよい時期で日本国のきまりをつくるときです。天皇側と幕府側が協力し、どの藩もどの藩も仲良くなってきたので心からお願い申し上げます。昧死稽首