【訳文】上田藩主宛赤松小三郎の建白書

【訳文】上田藩主宛赤松小三郎の建白書

ただ今の世の中の情勢について、恐れ多いことですが、口上書で申し上げます。
 ただ今、世の中の情勢は日ごとに差し迫ってきていますので、身分の低い立場、浅い見識を顧みず、気付いたことの一つ二つを申し上げます。

 まさに今の長州征討では、もはや昨年から御出陣なされ、敵地へも赴かれ、この様なことになったからは、政治と軍事制度の良し悪しによって、国の興廃にかかわる重要な時期に臨み、この様に差し迫った世の中であれば、はなはだしく並外れた制度改正がなければ、朝廷と幕府に対する満足のいく命令がなくては、昔からの慣習にこだわり融通の利かない決まりは全て廃止し、上級藩士と下級藩士の隔たりの廃止、下位の者に至るまで藩主に意見を述べることができるように改め、人材を選ぶときには家柄、身分、禄高には一つもこだわることがなく、その人々の学問、知恵によって選ぶことが差し迫って重要で、たとえ下位の者にも常日頃から面会して十分に話をする。自らが直接に人材を選び、その任にふさわしい者は、生涯高位の役職で高い給与に抜擢する。総じて学問と位階には少しも不平等が無いように人材を選べば、上級藩士と下級藩士が一つになることは本当に富国強兵の拠り所となるもので、他の手段は無いものと承知しています。
 藩全体の指揮は言うまでもなく、藩主の直接の命令で、手足のように使うことができるのは当然のことです。政治学と軍事学では実際に活用できる良い書物を選び、その学問を自在に扱える人に頼り、昼も夜も学ぶことは急務です。清国の儒教の経典や歴史書などを声に出して読むということは、はなはだ順番が逆です。

 学問の順番は、よくよく念を入れて判断し、日頃の行いを改めるのはあたりまえで、急ぎ行わなければなりません。
 一方では、大勢を指揮して戦場に向かわれるときは、軍事戦法では直接に指揮され、戦地に十分に生かすことのできる学問技術は無く、ただその役にゆだねてばかりでは、出陣の効果も無い。一大名の職務に立たざることですので、昼も夜も兵備の制度、戦い方を学び、毎日軍事教練の効果が上がるように、直接に指揮され、実際に効果的な戦い方を理解し、且つ兵備の制度は思うままに改正し、雑事役は全て廃止します。
 兵士の役職は適した人を選んで命じ、役名は全軍惣督 歩兵頭 大砲頭、それと同程度のものはそれぞれ兵に用いる名称に変え、普段の任務は軍の規則で定め、衣類、武器、馬具などこれまでの品物は廃止し、決して軍の装備以外には使わないで、軍事用だけに決めます。
 雑事は兵事役に兼務するように命じられれば、当然に武士としての考え方も正しくなり、一様に嘘偽りがないようになります。
 上級武士と下級武士が一つになり、富国強兵のことにだけを成し遂げようと努力すれば、ますます良い方法が確かとなります。あらゆる国の優れた武器を全て備え、大砲・施條銃(ライフル銃)を十分に備え、馬は戦地に役立ち、強馬は軍用の一定数に減らし、西洋式軍用の馬具だけを使い、全藩が実用となる学問を上達させて、いつでも戦争のために十分な状態にしておくことは困難ではありません。

 既に近頃私に軍備、軍事訓練を頼みに来られている諸大名方は、年若くとも西洋諸国の兵法兵学の書を調べ、西洋の書物を学び、自身が軍事訓練の指揮、軍備の改革などを行っている諸大名は少なくありません。
 例えば大きな制度改革では君主自身が事情を聴取し、直接に世の中を変えるということを命じ、本当に良い方法に改めることができれば、藩の中に不満を持つ人は一人もいなくなるでしょう。
 既に改革を終えた事例は少なくなく、成し遂げようとする気力次第で、改めることは容易です。
前述の諸大名は、軍事訓練において足軽までも直接に面倒を見ており、腕前、技量を正すなどしています。
 まさしく昨今の大名は、ほとんど、皆が前述の状態で、昔の大名の行いや業績では朝廷や幕府への奉公はできない時代ですから、様々な事柄で並外れた制度改正が必要です。日頃の行いを改める時期で、国の興廃は、ひたすら奮い立つ、志に励む、決断の部分によりますから、どうか気力を貫き通し、富国強兵の政治を行うことをひたすら強く願います。

 今の世の中のこれ以上の状態の詳細は、直接お尋ねくだされば、あらゆる国の法則や日本国内の諸藩の状態などを、詳しく申し上げます。
 まさに今の差し迫った危険な情勢に気付いたことを黙っていることは、私の意に反していると思い、浅はかな考えを大雑把な書面で申し上げること、罪深く、恐れ多いことです。九拝敬白。

  慶應二年丙寅九月 赤松小三郎

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