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木造薬師如来立像

種別 :市指定 有形文化財 彫刻
指定日:昭和56年2月6日
所在地:浦野
年代 :

解説

遊行僧〔ゆぎょうそう〕円空の刻んだ仏像は、独特の雰囲気〔ふんいき〕をもっています。簡潔で省略化された形、直截〔ちょくせつ〕な鑿跡〔のみあと〕は、円空ならではの世界です。美濃竹鼻(岐阜県)に生まれ、伊吹山で修験の修行後、遊行僧となり日本全国を行脚〔あんぎゃ〕しました。そして生涯に十二万体の仏像を刻む大願を立て、しかもそれを成しとげた偉大な遊行僧です。


今日、郷里の岐阜県をはじめとし、日本の各地に迫力のある円空仏がたくさん遺〔のこ〕されています。貞享三年(1686)、信州の木曽谷を訪れた五十五歳の円空は、三留野〔みどの〕の等覚寺においても何体かの仏像を刻んでいます。


円空の刻む仏像は、「気」の造形といわれるように、集中されたその一瞬々々の精神の高まりを鑿〔のみ〕に託し、一つの形を創り出しているのです。具体的には、その精神の高まりが鑿のスピード感に集約されているのです。これが円空仏のもつ迫力と不思議さであるといってよいでしょう。


馬脊〔ませ〕神社に伝わる薬師如来立像は、いわゆる鉈彫〔なたぼ〕りといわれる仏像です。檜材を用いた一木造で、丸い原木材を鉈で二つ割りにし、その割れ面を背に、木の表に鉈や鑿で刻みを入れる手法をとっています。如来像は、全体の姿を一刀彫り風に鉈で刻みを入れ、細部を鑿で仕上げています。


頭部の螺髪〔らほつ〕(粒状の髪)は刻まず筋目でそれに代えています。顔は円空独特の愛くるしい笑みをたたえています。体部の着衣は衲衣〔のうえ〕と裳〔も〕ですが、両手は裳の袖の中で拱手〔きょうしゅ〕し(手を合わせること)薬壺〔やっこ〕をのせています。両袖をふくめた体側は、円空仏によくみられる、はね上げる鰭〔ひれ〕を重ねたような表し方です。


また着衣のひだは、丸鑿を用いた簡潔な筋目で表されています。台座は鑿を入れず、割りさいたままの材とし手を加えていません。


法量は、像高40.3cm、面長5.0cm、面幅4.9cm、面奥5.0cm、肩張り11.4cm、臂〔ひじ〕張り14.0cm、胸厚6.0cm、裾〔すそ〕張り14.1cm、足開き7.0cm、台座正面高11.8cmです。


この薬師如来立像は、その青年期に刻んだ迫力のあるものに比べややおとなしい作風です。したがってこの仏像は、円熟の境地に到達した円空の後半生の作品であるのかもしれません。


馬脊神社に伝来する由来については不詳です。円空が実際にこの地を訪れ、刻んだものであるのかどうかは不明です。