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木造狛犬(保野塩野神社)

種別 :市指定 彫刻
指定日:昭和57・4・13
所在地:保野

解説

保野塩野神社の狛犬は、阿形、吽形ともに檜材を用いた寄木造です。後頭部から前脚をふくめて一材、体部後半から蹲踞〔そんきょ〕(前足を立て後足ですわる姿勢)する後脚部まで一材の、二材を縦に矧寄〔はぎよ〕せていますが、中をえぐりとっていません。


両像はともに蹲鋸の姿勢をとっていますが、阿形は前脚の右を前に出し、左を後ろに引き、顔は左前方に向けています。吽形は阿形とはまったく逆に、前脚の左を前に出し、右を後ろに引き、顔は右前方に向けています。現状は阿形は右の耳先、鬣〔たてがみ〕(額から肩にかけての長い毛)の先端部、鼻先の全部を欠損しています。


また吽形も後脚部の右足先に欠損部が確認されますが、両像ともほぼ完形に近い姿です。像高は阿形が34.0cm、吽形は33.3cmで、造立当初は、白土の下地に彩色がほどこされていたように思われますが、剥落〔はくらく〕が進み現状は素地(生地)です。


両像とも蹲踞の姿勢で、胸を突き出し、前脚をやや開いて踏ん張り斜め前方をにらむ姿は堂々としています。マバラ彫り(細部を省略し大まかに刻むこと)の房々とした鬣〔たてがみ〕、その中に刻まれた、眉間〔みけん〕に皺〔しわ〕を寄せる瞋目〔しんもく〕(大きく見開いて怒った両眼)の目、そして鼻や口もとのつくりは、さほど忿怒の表情(怒りを示す表情)を強調してはいませんが、じっとみつめる目には、鬼神、悪霊〔あくりょう〕を寄せつけない迫力が秘められています。


からだの肉づけは、鎌倉彫刻にみられるような、写実をもとにした迫力のある表現ではありません。しかし控えめで、最小限度におさえた肉づけは簡潔で、像全体のバランスがよくとれています。制作年代は、この狛犬に関する記録が伝存しないため、断定することはできませんが、的確な彫技と全体の穏やかなまとめ方から、南北朝時代から室町時代初期とみるのが妥当と思われます。