獅子舞の源流は、八世紀ころ中国から伝来した伎楽〔ぎがく〕(大陸から伝わった舞踊楽)や舞楽にさかのぼります。獅子舞には、大きく分けて二人立ちの獅子舞と一人立ちの獅子舞の二通りがあります。その中で大きな獅子頭に胴幕を垂らし、二人ないしそれ以上の者が入って舞う獅子舞の源流は伎楽に、雌雄二頭の獅子が楽器の伴奏で舞う獅子舞の源流は舞楽とされています。
また一人で舞う獅子舞は、山野に棲息〔せいそく〕して農作物を荒らす鹿や猪〔いのしし〕を鎮圧する日本古来の儀式から生まれたものといわれています。獅子は、中国においてはライオンを神格化したもので、悪霊調伏〔あくりょうちょうぶく〕の神仏の化身〔けしん〕とあがめられ、当初は寺院の法会に登場しましたが、平安時代以降は、悪霊調伏、厄難退散を目的とする各地の祭事で舞われるようになりました。特に伊勢神宮、熱田神宮では、悪魔払いの神舞として各地で演じたことから、太神楽〔だいかぐら〕、神楽〔かぐら〕獅子などと称され、その舞は日本の各地に広まりました。
本社に納められている二面の獅子頭は、かつては悪霊調伏のために神前に奉納された獅子舞の頭と考えられます。両面とも、頭部と下顎部を各一材から彫出し、上下の顎奥〔あごおく〕両側に閂穴〔かんぬきあな〕(左右に貫〔つらぬ〕いた穴)をもうけ、ほぞを通して口を開閉させる仕組みになっています。
用材は、第一面は桐材、第二面は松材です。法量(仏像などの各部の大きさ)をみますと、第一面は面高33.5cm、面奥44.5cm、面幅38.5cm、第二面は面高23.0cm、面奥46.5cm、面幅31.1cmです。この法量から、第一面は縦長で、奥行きが浅く幅広の頭であり、第二面は全体が偏平で、奥行きが深く細長い頭であることがわかります。とくに第一面は円頂で、第二面は角形で低く平らであることが特徴的です。また両面とも白土の下地に彩色をほどこした痕跡が確認されますが、剥落が進み現状は素地となっています。
また両面とも伎楽面の系統をひく頭と思われ、第一面は損傷が進んでいますが、太い眉、大きな眼球など、全体の素朴なつくりの中に力強さを感じます。第二面は装飾性が強く工芸的なつくり方となっています。制作年代は、両面の表現様式からみて、第一面は室町時代前半、第二面は室町時代後半と推定されます。