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松平信一着用具足(博物館)

種別 :市指定 工芸品
指定日:昭和44・5・9
所在地:上田市立博物館

解説

旧上田藩主松平家の先祖信一が、徳川家康から拝領した(授〔さず〕けられた)という甲冑〔かっちゅう〕です。戦国時代の末からの甲冑は「当世〔とうせい〕具足〔ぐそく〕」または、それを略して単に「具足」と呼ばれました。


松平信一は永禄〔えいろく〕11年(1568)、織田信長が近江〔おうみ〕(滋賀県)の六角義賢〔ろっかくよしかた〕を攻めたとき、徳川家康からの応援の軍勢を率いてその戦いに参加しました。この具足は、その出陣に際して家康から「餞〔はなむけ〕」として贈られたというものです。


〔かぶと〕は木菟〔みみずく〕をかたどっています。合戦において自分の存在を目立たせる目的もあって、安土桃山時代を中心に、このような個性あふれる様々なデザインの「変り兜」が流行しました。


胴は全体に、鉄または堅〔かた〕く加工した革の小さな板に黒漆を塗〔ぬ〕った「小札〔こざね〕」を、黒褐色の糸(紐〔ひも〕)で威(おどし)し(綴〔つづ〕っ)ています。胴の正面には、金箔を貼った小札と茶色の糸で、徳川家の三葵〔みつあおい〕紋を表しています。そのため、これは「黒糸威〔くろいとおどし〕三葵紋柄〔もんがら〕具足」とも呼ばれます。三葵紋は、このほか両膝をおおう「佩楯〔はいだて〕」にも大きく描かれたり、胴の縁〔ふち〕金具などにも数多く散りばめられています。家康の代理としての信一が着用した具足として、ふさわしいものであったと言えましょう。


この具足は「当世具足」の代表的な作品の一つとして、甲冑の専門書にもしばしば取り上げられています。甲冑研究者の間では全国的に知られている名品でもあるのです。