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いっつあ[円座](芳田)

種別 :市指定 有形民俗文化財
指定日:昭和55・4・8
所在地:芳田蚕影神社

解説

「いっつあ」と呼ぶ珍しい蚕神様への奉納物が小井田にあります。元来上田地方は養蚕の盛んなところで、蚕を多量に飼うようになって、その当たりはずれが農家の浮沈に大きく影響しましたので、各地に養蚕信仰が盛んになりました。


文政十一年(1828)泉寿院という山伏によって、常陸〔ひたち〕国桑林寺から勧請〔かんじょう〕されたという小井田の蚕影神社には、藁〔わら〕製の円座が参詣者の奉賽〔ほうさい〕物(捧げもの)として、拝殿の格子戸にいくつも結びっけてあったのです。これらは、この地方一帯から納められたもので、おそらく千個以上になりましょうか。拝殿内の棚に整理保存されています。


この円座は写真で見るように、藁を叩〔たた〕いて柔らかくして、紐〔ひも〕状に組んだものを内側から外側にひらたく巻いて、ほつれぬよう内側の輪と二重に結び合わせたもので、直径が20—30cmぐらいあります。むかし、蚕を竹製の籠で飼うより以前には、この上で飼ったといわれます。ところが平底の藁製のため蚕が大きくなるとその目方でしなり、底に割竹を二本補強しました。しかし、使用中に柔らかくなってしまうので、一回毎に新しいものに替えたそうです。


養蚕業が極度に衰えて、飼育の方法も大きく変わった今日、再びこれを作って祈〔いの〕る人もいないでしょう。かつて全国一を誇った長野県の蚕糸業を考える上で、貴重な資料の一つといえるものです。