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旧常田館製糸場施設(重文)
笠原工業常田館製糸場(市指定)

種別 :国指定重要文化財/上田市指定文化財
指定日:平成24年12月28日(重文)/平成22年2月19日(市指定)
所在地:上田市常田一丁目1,694番地1及び1,726番地
所有者:笠原工業株式会社

解説

笠原工業に残る製糸工場の遺産は、明治・大正期に隆盛を極め、「蚕都〔さんと〕」とうたわれた当上田地域の製糸工場に関連する倉庫群や建造物が、セットとして残っていることにその価値が集約されます。近代には全国に偏在〔へんざい〕し、日本の近代化の原動力となった製糸工場には直接生産の工場だけでなく、従業員の衣食住に加え、文化施設や医療施設までも備えていましたが、戦後の製糸業の衰退の中でこれらの工場は次々と姿を消していきました。

嘉永〔かえい〕5年(1852)諏訪郡平野村(現岡谷市)に生まれた笠原房吉〔ふさきち〕は、開通したばかりの信越線上田駅に近いこの地に,明治33年(1900)「常田館製糸場」(屋号は〇二〔まるに〕)を創業しました。以来製糸業の隆盛と哀退のなかで、製糸工場建物は増築・取り壊し・焼失・改築・移転等の紆余由折〔うよきょくせつ〕を経ながら今日に至っています。かつてあった娯楽場や病室は失われてしまっているものの、近代製糸工場の特徴を示す多層式倉庫群〔たそうしきそうこぐん〕(乾燥通風用の窓が多く開けられ、階層も多い倉庫)や建造物がまとまって残っているのは、全国的にもまれです。

製糸場遺構では群馬県の富岡製糸湯が有名ですが、富岡製糸場は国営の模範工場としてフランス式の製糸を行っていたのに対し、常田館ゆかりの諏訪・岡谷では民営で、イタリー式の後フランス式と折衷の諏訪式製糸を広めており、日本の近代製糸業を語り対比する上で欠かすことのできない遺産です。

個々の建物でも五階繭倉庫などは木造倉庫としては国内最高層の貴重な存在となっているほか、大正時代末の鉄筋コンクリート造りの繭倉庫、外観の一階が和風で二階が洋風の事務所兼住宅(常田館)など稀少な建物も多く遺っています。特に4棟残る繭倉庫は、初期の多窓式多層倉庫から繭乾燥機が発達した時代の倉虜までの変遷が歴然と残り、学術的にも賣璽な近代文化遺産として指定されました。