山本鼎版画大賞展

第2回山本鼎版画大賞展入選作品の紹介

ごあいさつ

21世紀的創造の土台に

第2回山本鼎版画大賞展実行委昌長 小宮山 量平

 私たちが第1回《山本鼎版画大賞展》を実現することができましたのは、20世紀も末の1999年秋のことでありました。そして早くも本2002年には、このトリエンナーレの第2回目を開催することとなりました。いみじくも、20世紀から21世紀へと展開する節目を文化的に記念するかのようにして、山本鼎の名をよみがえらせることとなったわけです。

 思えば、このような山本鼎の「新生」は、決して偶然ではありません。いわば戦争と革命に揺らぎつづけた20世紀をかえりみて、さて21世紀を迎えるに当たり、わが日本の各界は、とりわけ深い歴史的反省に立脚し、創造性豊かな「希望」を探求しつつあるのでしょう。あたかも稔り豊かな新樹の成育を希うが故に、その継木のために最良の台木を選びぬくのにも似た英知が望まれているのです。

 そんな英知から見れば、かの第二次世界大戦後すでに半世紀余を経ているにもかかわらず、そしてIT革命など激流のような文明の変革がもたらされているにもかかわらず、文化的な「新生」の土台は、反って20世紀初頭にまで逆のぼって探求せずにはいられない昨今であります。広く「大正デモクラシー」の源流がかえりみられ、「“赤い鳥”文化」への憧憬が深まりつつある現状です。人間精神や道徳の明朗さを踏まえての“日本人の元気”は、そうした原点回帰の心情を抜きにしては考えられない程のストレスの氾濫ぶりです。

 この《大賞展》の第1回をかえりみれば、私どもの期待を遥かに超えて、凡そ3倍もの応募作品がありました。そしてこの第2回展は山本鼎生誕120年に当たるせいもあってか、更に前回を上廻る反応が示されているのです。こうした気流の底に、私たちは今更のように、かつて《自由画教育》の旗をかかげて日本の美術界を揺るがした山本鼎の健やかな文化創造の祈りを偲ばずにはいられないのです。彼の名を冠したこの《大賞展》をシンボルとして、日本文化の底流に、今こそ爽やかな原点回帰の気運を喚びさましたいものです。

 もとより一介の美術運動的なイベントが、過当な期待を担い得るものでないことは、私どももよく承知しております。けれども、昨今の余りにも沈滞しがちな各界の気流をかえりみれば、かつて大正期の始めから昭和初頭にかけて、一世を風靡した山本鼎の青春の気にみちみちた呼びかけを、私たちは挙って想起し、21世紀への創造的な活力を呼び戻そうではありませんか。