山本鼎版画大賞展

第2回山本鼎版画大賞展入選作品の紹介

児童生徒の部審査員講評

いま甦る山本鼎の言葉

山本鼎版画大賞展実行委員長 小宮山量平

 山本鼎の《自由画教育》が出版されたのは1921(大正10)年のことですが、あれから80年を経て、日本の自由画運動はすっかり定着したかにみえます。けれども私たちは時どき立ちどまっここの運動の発展の跡を振り返ってみることが大切でしょう。その本の中から先生の言葉を幾つか拾ってみました。

 「自由画という言葉を選んだのは、不自由画の存在に対照してのことである。不自由画とは、模写を成績とする画のことである。・・・・創造(creation)という字が一般に分かり易いならば、もちろんそれが良い。然しわが国の図画教育の現状に対する時、自由画というのが適切ではないだろうか。」

 「子どもにはお手本を備えて教えてやらなければと思うなら、大間違いだ。われわれを囲んでいるこの豊かな自然は、いつでも色と形と濃淡で彼らの眼の前に示されているではないか。それが子どもたちにとっても大人たちにとっても、唯一のお手本なのだ。・・・・自由画教育は、愛を以て創造を支える教育だ。従来のような押し込む教育ではなくて、引き出す教育なのだ。」

 最近とくに日本の教育の21世紀像が論じられ、さまざまの改革が試みられようとしていますが、今こそ、山本鼎の旧くて新しい志(こころざし)が、深く、熱く、かえりみられるべきではないでしょうか。

(2003.2.1)

審査を終えて

 審査委員長(長野県中学校美術教育連盟理事長)松田 幾夫

 県下の小、中学生から応募された作品総数は1,560点で、前回を430点上回りました。審査に当たって重視したことは、版画としての美しさ(単純性)であり、「単純化された形や色の中に万象の気を宿し、見る人の心を強く動かすものがあるか」という点と、新しい版画の方向(創造性)を目指した表現であるか」という点でありました。

 応募された作品はいずれも充実しており、甲乙つけ難いものばかりでした。小学校低学年では、その子が心や体を通して対象とかかわり、感じたこと、発見したよろこびをそのまま表現しておりました。その子自身が作品に息づいているようで、伸びやかな自由さは見る人にほほえましい感動を与えてくれました。高学年では、対象をいろいろな角度から見たり、画面の構図や組み立てを考え、独創的に表現した作品が多く見られました。中学生の作品は、表現技能の高まりとともに表現のもとになる心の発達が感じられました。特に構想的な表現では、主題を明確にとらえて、感じたものや心の中の世界をいかに表すかの工夫が見られました。

 学校教育に版画を取り入れ始めたのは大正7年頃と聞いております。山本鼎の自由画教育の提唱が、今もここに着実に浸透していることに感謝し、ますます版画表現が盛んになることを望みます。

審査員

上田 秀洋(信州大学教育学部美術専攻教授)
北野 敏美(飯田女子短期大学助教授)
小林 幸雄(原村立原小学校教頭)
塩沢順四郎(信州版画協会審査員)
宮下  高(上小美術会会長)
武捨 孝之(信州版画協会上小支部長)
山崎 英樹(少年美術館長)
山崎 義人(長野県美術教育研究会会長代理)

【敬称略五十音順】