山本鼎版画大賞展

第2回山本鼎版画大賞展入選作品の紹介

入選作品

大賞

WORK 240302 (コラグラフ 100.5cm × 76.5cm)

いしだ ふみ(兵庫県)

受賞者のコメント

 阪神大震災よりこの方、破壊され、その痕跡さえ無くなってゆく出来事を、随分まのあたりにした。それらのものとは見慣れた建物や町並みであり、近しいものの脳であり、身体であった。

 そして又、テロの惨劇である。

 残った我々は、形を無くしてしまったそれらを引き受け、生き続けなければならない。私は表現する者として・・・

 果たしてこれからも、形を無くしたものたちはどんな像となって現われ、どんな想いを抱かせ続けるというのだろうか。

 一方、「山本鼎」という存在は、教育に携わり、春陽会に所属する私にとって大いなる河の源流にきら星のように位置する方であった。今回、その記念の賞をいただくことが出来たという偶然により、氏の精神と私の“生”とがわずかでも接点を持った想いがするのである。感謝。

大賞

turn around (木版 72cm × 91cm)

桂川 成美(岐阜県)

受賞者のコメント

 この度は、山本鼎版画大賞展準大賞をいただき、誠にありがとうございます。

 大学を出て、1人で制作を始めたばかりの私にとって大変励みになる受賞です。

 また、山本鼎が現在の版画や、美術教育などに多大な影響を与えた人物であり、その流れの先に私もいることに大変感慨深い思いがいたします。

 私は水性木版で制作しています。写真や、そのコピーに触発されたり、逆にそれらをイメージに引き寄せたりしながら制作します。水性木版の、墨や絵の具が吸いとられたような紙の表面や、墨の濃淡によって出来る色調がとても好きです。又、版を彫るのは大変なのですが、刀で木を刻んでいくかんじや、摺り上げたとき、どのように現れるかを考えると、楽しく感じられます。

 今後も、よりイメージに近付くよう、自由に素材と関わってゆけるよう、制作に励みます。

round home - 1 (銅板 63cm × 90cm)

松田 修 (千葉県)

受賞者のコメント

 齢29。もう少しで30になる男。

 たいした成功もなく、大きな挫折もなく生きてきた男。

 情報過多な毎日に足下を見失いかける時もある。悩んだ時には「やるしかないんですよ。」の言葉を信じる男。

 好きでもない人に雄弁に語り、好きな人には気の利いた言葉もかけられない男は、悩みを打ち消すかの様に、記憶の断片を収集し、イメージがかたちになるのを楽しんだ。

 溢れはじめた記憶をはやくかたちにしたい心境だが、製版し刷り上がるまでに様々な試刷りをとり、完成するのでなかなか思うようにはいきません。版画は難しいものです。

 最後になりましたが、上田市、審査員、関係者の方々、日頃、生活・制作などでお世話になっている人々に心から感謝申し上げます。

 今度はありがとうございました。

サクラクレパス賞

城砦 (エッチング 54.8cm × 50cm)

東 弘治 (熊本県)

受賞者のコメント

 閃く、ということはあるもので、自分が描いていた何年も前の別々の下絵を互いに組み合わせたら上手くいくのではないか、とある日突然閃いてできたのが今回の作品でした。

 そうは言っても、何年もの間そんな考えが浮ばなかったというのは、自分の表わしたいイメージが明確になっていなかったことに外なりません。それに対して具体的な核を与えたのが現実の世界の出来事や自身の体験でした。それは昨年のニューヨークのテロで崩れるビルの映像や、大量のゴミを捨てるために行った処分場の巨大な深い穴に舞う紙片だったりするわけです。作品は自分で描くものだけど、その後押しをしているのは時代の空気のような気がします。描くテーマがあまりに多い現代ですが自分のポジションを見失わぬようしっかりアンテナを掲げ「今」を感じながら制作していきたいと思います。

佳賞

visage・2 (銅板 62cm × 92.5cm)

八木 文子 (山形県)

受賞者のコメント

 そこに居る、という現実は、時にその存在が現実であればこそ見えないものであるかの様に不確かなものとして意識される時があります。

 絶えず流れてゆく時間を刻むように版に刻みとり、存在を表現したいと考え、制作してきました。

 このごろはそのかたちが、そうでなくてはならないかたちを求めてきている様にも思います。

 今回、賞を頂けた事を励みにさらに深く、追求したいテーマです。

夕暮れに見た夢 (木板 94cm × 107cm)

加藤 昭次 (群馬県)

受賞者のコメント

 受賞の知らせを聞いたのは家に帰った直後、時間的に夕暮れであった。玄関を入ると妻が一人拍手で迎えてくれた。事務局から電話が有って佳作賞に入つたと言った。埼玉南部に住んでいる二人の大学生の子供にもすでに報告済みであるとも言った。家族四人、知らないでいたのは当の私だけ。私がもやもやしてる頃にみんな大喜びしているのだ。何ともおかしな事であるし不思議な事でもある。

 初めての事で喜び方が分からない。大声を出したが中途半端だ。妻はお祝いにと、ストロベリーショートケーキを買っておいてくれた。コーラで乾杯。普段あんなに大好きな物がおいしくない。そのうちに心臓が高鳴り出して来た。一人になってBeatlesの“Help”を五回聞いた。時々一緒にがなってみる。外は暗くなり夜になった。いつ平静に戻るのだろうか見当もつかない。

のどかな海 (木板 50cm × 69.5cm)

庄司 孝志 (東京都)

受賞者のコメント

 受賞の連絡を頂いたとき、一寸ビックリしました。

 公募展は出品作品が多いので「インパクトの有る作品でないと駄目だよ!」 と常々、仲間も言っていましたし、その様に信じていました。

 私は、「柔らかな優しい絵を木版の技術で創る」ことをモットーにしています。その為競争の激しい公募展には不向きな作品だと思っていました。しかし、応募要項の趣旨を拝見し私の作品でも正当に評価して頂けると確信し、応募致しました。

 作品は、北海の短い夏、番屋の長閑で静かな空間を描き出せたら・・・と思って制作したものです。

 お陰様で独学の私ですが、また少し、自分の進む方向が確かなものとなり今後の創作に希望と自信が湧いてまいりました。入賞という栄誉に預かり本当に有難うございました。

雨降り (木板 82cm × 54cm)

川端 千絵 (滋賀県)

受賞者のコメント

 この度は、佳賞に選んで頂き、ありがとうございます。

 長雨の続く梅雨の頃に下絵を描いていたら、こんな作品になりました。シトシト降り続ける雨の音を聞きながら1人で居ると、何かの底に居る様な気がします。底に居るのは少し淋しいのですが、大変居心地の良い場所でもあります。

庭-雫- (木板 58cm × 87.5cm)

森田 力(埼玉県)

受賞者のコメント

 ここ数年、「庭」というテーマで制作しています。

 部屋の窓を開けると小さな(空間)がひろがっています。幼少のころそこで育った記憶や、映像、今も変わらず毎年咲き続けるサクラの木々。その流れる時間の中に私は入り込み、一つ一つを丁寧につなぎとめながら版に彫り込んでいます。

 この作品は葉をつたわり、こぼれ落ちる雨の雫を描いたものです。

 天から地へ、そして天へ・・・。

 長い時をかけて、そしてひっそりと・・・。

 自然の一瞬のせつない場面がそこにはありました。

 今回、このような賞をいただき誠にありがとうございました。

 これを励みにこれからも自分らしい作品をつくっていきたいと思います。