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蘇民将来符 その信仰と伝承
八日堂蘇民将来符
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製作過程

蘇民将来符の原木であるドロヤナギは木肌が滑らかで細工に適しています。また、このドロヤナギを煎じて飲むと胃痛に効くと言われ、薬木の一種とされています。

1. 原木のドロヤナギ

映像アーカイブ「蘇民将来符製作(切り出し)」の再生 蘇民将来符はドロヤナギの木でつくられている。このドロヤナギの正式な植物学上の名称はヤマナラシ(Populus Sieboldii Miquel・白楊)である。ヤマナラシはハコヤナギともいわれポプラと同属の植物である。葉は先がややとがった形で、樹皮は暗灰色を呈している。このヤマナラシの方言名をドロヤナギ、ドロノキといい、当地方では昔から蘇民将来符の原木を"ドロヤナギ"と通称している。

ドロヤナギの自生している山林の写真
ドロヤナギの自生している山林(真田町傍陽中組)

 この木は山地に自生し、四月に褐色の穂状の花をつけ、雌雄異株*1である。幹はまっすぐに伸びやすく、樹高は15m〜20m、直径は通常30cmほどになる。若木の樹皮は滑らかな緑灰色で、樹皮の上に菱形の皮目がみられる。葉柄*2の断面は扁平で、葉が風に揺れやすく、わずかな風でもサラサラと音をたてるためヤマナラシの名が生じた。また、材質が白く箱材に用いられたためハコヤナギとも称されている。

ドロヤナギの木立の写真
ドロヤナギの木

 ドロヤナギの方言名の起こりは、ヤマナラシの樹皮が泥を塗ったような色であること、また材質が泥のように軟らかで細工しやすいことなどによるとみられている。その材質の加工のしやすさからマッチの軸木、パルプ、ツマ楊子、箱材などに用いられている。

 ドロヤナギは当地方では、真田町、東部町、和田村、立科町等の標高700mから1,200mの山林に自生している。一般にヤナギの名称からシダレヤナギなどの姿を連想しやすいが、葉や枝、幹などの外見はポプラの木に似ている。クヌギやナラなどの雑木林の中に混在して生えている例が、このあたりでは多い。

 蘇民将来符をつくる木としては、やや乾燥した山の南斜面に生えているものが、木肌が白く年輪が目立たないために原木に適しているとされている。このドロヤナギは樹皮を煎〔せん〕じて飲むと胃痛に効くと古来いわれており、薬木とされている地方がある。蘇民将来符は疫病除けの護符として信仰される場合が多いが、こうした薬木をその材にしていることは何らかの意味があるものとみられている。

切り出されたドロヤナギの原木の写真
切り出されたドロヤナギの原木

 また、しなやかで強靱な柳の木は、古代中国では霊木*3、仙木とされ、悪鬼を払う大事な木とされていた。柳の材を八日堂の蘇民将来符に用いることについては、信濃国分寺所蔵の「牛頭天王之祭文」の中に、「柳ノ札ヲ作テ蘇民将来之子孫也ト書テ男ハ左女ハ右二懸可」との記載があり、柳がその材とされる由来が記されている。

 近年、林業従事者が減少し、山中に自生するドロヤナギの発見は年を追って困難になってきている。また、ドロヤナギが蘇民将来符の原木であることを知らずに、雑木としてパルプ用に伐採したり、切り倒して放置されているのが実情である。このため、寺関係者は、上田市指定民俗文化財でもある蘇民将来符の貴重な原木になるので、山林に自生するドロヤナギの木は大切にしてほしいと語っている。なお、平成5年、東部町の和地籍に、上田営林署の協力を得てドロヤナギが多数植林され、将来における蘇民将来符の原木の確保が期待されている。

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補足・関連項目

*1雌雄異株(しゆういしゅ)

植物の種で、雌花をつける株と雄花をつける株の区別があること。イチョウ・ソテツ・アサなど。雌雄別株。二家。
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*2葉柄(ようへい)

葉身を支えて茎に付着する柄のように細くなった部分。
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*3霊木(れいぼく)

神仏が宿るという神聖な木

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