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人工癌実験の成功(2/6) 〜研究と実績〜

明治44年には肝臓癌の分類法を発表した。肝臓癌には肝臓の実質細胞からできるものと、輸胆管上皮細胞からできるものがあるので、これを区別し、実質細胞由来のものを「ヘパトーマ」と名付けた。この名称は、一時は国際的にも使用されたが、今日では「肝細胞癌」に変更されている。

明治40年ころから実験動物を用いた発癌実験を始めた。山極先生は動物の耳には自然に癌ができることはないと信じていたので、長期間耳に刺激を与えて人工的に癌をつくることにした。最初はマウスを用いたが耳が硬く小さくなってしまうので実験にならなかった。

歴史的にみると、すでに1775年(安永4)に煙突掃除夫に陰嚢癌ができることがわかっており、それから百年たった1874年(明治7)にはコールタールを扱う労働者に職業性の皮膚癌ができることも報告されている。しかし人工的に癌をつくることには誰も成功していなかった。ようやく1913年(大正2)になってデンマークのフィビゲルが、寄生虫に感染しているゴキブリをラットに食わせることによって胃癌をつくることに成功したと発表した。

この仕事に山極先生は刺激され、本格的に発癌実験を始めた。実験を担当したのが、市川厚一青年である。東北帝国大学農科大学(札幌にあった、のちに北海道帝国大学農科大学になる)出身の市川は、山極先生の指示どおり、ウサギの耳にコールタールを忍耐強く塗擦し(山極先生は、機械的な刺激も加えるという意味で、「塗布」よりも「塗擦」という言葉を好んだ)続けた。実験は成功し、山極・市川の連名で大正4年9月25日の東京医学会に発表された。はじめはこの実験を信用する人は少なかったが、千葉医学専門学校の筒井秀二郎(ひでじろう)が山極先生の実験にならい、マウスの背中にコールタールを塗擦する方法によって、もっと高率に、しかも早く癌をつくることに成功したので、コールタールによる人工的発癌が世界的に認められるようになった。

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写真 写真 山極・市川実験による兎耳癌の標本
家ウサギの耳にコールタールの塗擦を繰り返すことにより発生した世界初の人工癌の標本。東京大学(上・中)と北海道大学(下)で大切に保存されている。
〔東京大学医学部標本室・北海道大学大学院獣医学研究科 比較病理学教室所蔵〕

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