大日本職業別明細図之内
－信用案内

　東京交通社が「大日本職業別明細図之内－信用案内・長野県」として県内主要都市の中心市街地図を集めたものである。大正時代から昭和初期にかけて、長野県内は鉄道の敷設や道路の整備等近代化が進んだ。それに伴い街の商業活動も活況を呈した。また余暇を利用して鉄道に乗り、地方の名勝地である神社・仏閣・温泉を訪れることが大衆化した。こうした事情を背景に都市図がつくられた。とりわけ中心市街地の職業明細図は当時の商店街を知る重要な資料である。

　長野県各地の主要都市として掲載されたのは、上田市・小諸町・千曲川沿道町村・岩村田町・霊泉寺温泉・長久保新町長窪古町・富士見及落合・丸子町・小野村・辰野伊那富村・茅野矢ケ崎山浦・上諏訪町・下諏訪町・飯田町である。現上田市関係は上田市・丸子町・霊泉寺温泉の3箇所である。

上田市部分図

　上田市では市街地中心部の商店・官庁・学校・医院・神社・寺院が載った地図で、初期の住宅地図である。地図の南側に信越線「うへだ」駅がある。上田駅から北へ松尾町・原町へ、原町から東へ海野町がある。原町・海野町交差点附近が上田市街地の中心地であった。中心地には郵便局があり、また銀行が多く集まっているのは蚕都上田の経済活況期を反映していた。大手町から西は市役所・税務署・裁判所・学校が集中、行政の中心であった。

　大正から昭和初期にかけての上田の大きな変化は、蚕都上田の繁栄を反映した鉄道敷設による交通革命である。信越線上田駅は上田小県地方の旅客及び貨物輸送の要衝地であった。私鉄は大正13年、上田温泉電軌（株）が千曲川に鉄橋を架橋、上田駅と川西方面の青木線や川西線（後の別所線）と結ばれた。同社は昭和2～3年、上田駅を基点に神科・真田方面への北東線（後の真田・傍陽線）を敷設した。この鉄道は市街地の周囲を回るルートで建設され、上田への通勤・通学・買い物に利便性は高かった。また、丸子鉄道（株）が大正14年に信越線大屋駅から上田市街地東端の上田東駅に乗り入れ、依田窪地域と上田市街地の関係はより蜜になった。

丸子町部分図

　丸子町は明治22年、下村亀三郎が依田社を開業して以来、製糸の町として大発展した。下村は産業組合法による共同化を進め、同29年までに35工場を設立した。依田社系製糸場には┏（かね）を工場名に冠して連帯感を持たせていた。地図中にも多くの工場を読み取ることができる。

　依田社は付属事業として模範工女養成所や依田社病院を経営するなど厚生施設にも力を入れた。そうした施設を地図中に確認することができる。丸子製糸業の全盛期は大正期で、大正末には4500釜、工女5000人を擁し、岡谷・須坂に次ぐ製糸業の町に発展した。

　製糸業の発展により交通の整備が進んだ。大正7年、丸子鉄道（株）が信越線大屋駅―丸子町駅間丸子線の鉄道を敷設、同14年大屋駅から上田東駅へ延長、また上田温泉電軌（株）は別所線下之郷駅から西丸子駅へ依田窪線の鉄道敷設を行い、上田市街地への電車交通は整備された。

霊泉寺部分図

　霊泉寺温泉の地図は山地をケバで描いてある模式図で温泉旅館がわかる観光図となっている。西内村（現上田市）の内村街道（現国道243号線）に沿って内村川が東流している（地図では武石川と記されているが誤りである）。宮澤から霊泉寺川を約1.5キロメートル遡った三方を山に囲まれた静かな温泉場が、霊泉寺温泉である。ここへは内村街道の茂沢や穴沢からの峠道もある。

　温泉の中心地に湯場があり、湯場には浴場が、その周囲には旅館が9館立ち並んでいた。霊泉寺温泉は明治大正期の蚕糸業の繁栄を背景に湯治客で賑わったところである。湯量も多く、早くから内湯の施設も整った温泉であった。