元禄の信濃国絵図
元禄14年 (1701)
江戸幕府が最初に全国から国絵図の徴収を図ったのは慶長9年(1604)ですが、次に、組織的に全国規模で徴収したのは正保年間でした。その後、年月の経過による地勢の変化や社会動態に対応して、元禄年間と天保年間に改訂されました。
元禄国絵図については、5代将軍綱吉の治世の元禄10年(1697)閏2月に正保国絵図の改訂が開始され、同15年(1702)12月までに収納されました。信濃国は小藩が分立することから4大名が共同で受け持ち(相持ち)ました。信濃国絵図は、元禄14年(1701)9月に真田伊豆守幸道(ゆきみち)(松代藩)・水野隼人正忠直(松本藩)・仙石越前守政明(上田藩)・松平遠江守忠喬(ただたか)(飯山藩)が絵図元になり調整し、作成されました。元禄国絵図は、幕府の御用絵師であった狩野良信が各絵図元からの依頼で諸国の絵図の清書をほぼ一手に引き受けています。信濃国絵図も狩野良信によるものと思われます。
元禄国絵図は、幕府へ献上した国絵図の控を国許に保管したことから、控が各地方に残っている場合があります。この元禄信濃国絵図も、上田藩仙石家に伝来していた控本と考えられます。なお、上田市立博物館には、仙石氏のあと上田藩主となった松平家に伝わった元禄信濃国絵図を縮小して写したものも所蔵されています。これは、掛け軸に仕立てられており、両者の違いをみるのもおもしろいでしょう。
元禄信濃国絵図は、墨で描かれるとともに、川や湖は青・山は茶色や緑・道路は赤であらわされています。一里塚(街道の両側に一里、約4kmごとに築かれた小山)も黒丸で記されています。また、村名とその村の石高(米の収穫量になおした田畑の生産高) は小判形で囲み、郡別の色を塗り、城下町については四角で囲んでいます。郡境は墨による太い実線であらわされ、隣接する国々については色分けされています。大きさは、縦が8.68m、横が4.60mという大変大きなもので、縮尺は全国統一された規格どおり、一里を六寸(約20cm)とする2万1600分の1で作られています。また、余白の部分には小県郡(6万6千百43石5斗6合) など、郡ごとの石高と信濃の総石高(61万5818石7斗余り) および幕府領・大名領・旗本領・寺社領の領主別の石高を並べて書き、最後に「元禄十四年辛巳年九月」と提出した年月が記されています。
次に、信濃国絵図には必ず載せなければならない村とその石高や城下の記載以外にも、さまざまなものが描かれています。つまり、元禄信濃国絵図には現在でも知られている神社仏閣や名所旧跡等が描かれ、説明が記載されています。それぞれの郡ごとに、主なものをみてみたいと思います。
高井郡には、国境に白根山が描かれ、中野市の谷巌寺・飯田市の小菅社(八所大権現)など、山の名前や寺院が細かく記載されています。
水内郡では、野尻湖が描かれ、戸隠山には戸隠神社の奥院(奥社)・中院(中社)・宝光院(宝光社)が、飯縄山には飯縄明神宮(飯縄大明神、飯縄権現)が描かれています。また、善光寺も描かれています。
埴科郡には、松代が松城と記載されており、屋代古城跡が旧跡として描かれています。
更級郡には、聖山や姨捨山が描かれ、姨捨山には姨岩も描かれています。また、千曲市の武水分神社が八幡社として描かれています。信州新町の牧之島城が古城跡と表記され旧跡として描かれています。
小県郡をみると、神川は加賀川・矢出沢川は矢手沢川・四阿山は古くは東屋山と記されています。鳥居峠や湯の丸山は上野国にても同名と記されています。しかし、神社仏閣や名所旧跡等については、他郡のように描かれていません。
佐久郡には、国境に浅間山や荒船山が描かれています。浅間山は、山へ続く参詣道や噴煙も描かれています。また、碓井峠には峠権現が描かれています。なお、八ヶ岳は八ヶ嶽と記載されています。神社仏閣は、御代田町の新楽寺(真楽寺)・佐久市の貞祥寺や新海三社神社・松原湖の諏訪神社が描かれています。
安曇野郡には、青木湖や木崎湖などの湖や国境に焼嶽(焼岳)・乗鞍嶽(乗鞍岳)が描かれています。
筑摩郡には、松本市の千鹿頭社や廣沢寺が、松本市の浅間には温泉まで描かれています。
諏訪郡には、そのほぼ中央に諏訪湖が描かれ、湖の中に高嶋城が描かれています。当時の諏訪湖の大きさがわかると思います。また、下諏訪には秋宮と春宮が、上諏訪には諏訪大社上社が描かれています。
伊那郡には、南側に番所が多く描かれています。
木曽には、福嶋などに関所が描かれており、上松には寝覚の床も名所として描かれています。
元禄信濃国絵図は、このように国境の山岳部分の記載が詳しいうえに神社仏閣や名所旧跡等を豊富に描いています。
上田市立博物館所蔵
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